高級レンズとして君臨している開放F値が固定されたズームレンズ。
いわゆる『大三元レンズ』というのはズーム全域で開放F値がF2.8に固定されているレンズなんですが、このF値が固定されているメリットっていったいなぜかご存知ですか?
その理由は露出設定が楽になるということです。
写真の明るさを決める適正露出。それを導き出すために3つの要素があって
- 絞り値
- シャッタースピード
- ISO感度
絞り値を自身で決めて撮影する『絞り優先モード』でも、ズームで開放絞り値が動いてしまうレンズでは広角側と望遠側で開放絞り値が違うので、うっかり開放F値のまま撮影をしていると・・・。
- 広角端24mm F3.5 1/80 ISO200 →OKショット!
- 望遠端85mm F4.5 1/50 ISO200 →手ぶれ発生 NG
といった感じで、望遠端の焦点距離に対してシャッタースピードが遅すぎて手ぶれを起こしてしまうことがあります。
頻繁にズームを繰り返す撮影では気をつけたいところ。
F値通しレンズの利点はズーム全域で開放F値が変動することがないので、露出設定に失敗することが少なくなるんですよね。
ということで今回は「通しレンズを使うメリット」を深掘りしていきます。
F値が固定されたズームレンズのメリット
F値通しレンズというのは広角から望遠まで開放F値が可変することなく一定の値に固定されているズームレンズのことをいいます。
Nikon 標準ズームレンズAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR フルサイズ対応
ニコンのズームレンズ『AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR』は広角端24mmから望遠端70mmまで開放F値が「F2.8」に固定されているレンズになります。
Nikon 標準ズームレンズ AF-S NIKKOR 24-85mm f/3.5-4.5G ED VR フルサイズ対応
F値通しレンズに対してズームすると開放F値が可変するのがこちらのレンズ。広角端24mmが開放F3.5ですが望遠端85mmでは開放F値がF4.5と2/3段暗くなります。
この『広角から望遠まで開放F値が変わらない通しレンズ』のメリットというのが、露出設定に戸惑うことがないと言う利点です。
F値通しだと露出設定に戸惑わない
開放F値が広角から望遠まで一定だと露出の設定に戸惑うことがない点です。
F値が固定されているとどの焦点距離を使っても開放F値が動くことがないので露出の設定に戸惑うことがありません。
F値通しレンズではない「AF-S NIKKOR 24-85mm f3.5-4.5G ED VR」レンズを使った撮影を例として説明していきます。
AF-S NIKKOR 24-85mm f3.5-4.5G ED VRは先ほども書きましたが広角24mmでは開放F値はF3.5でズームして望遠85mmになると開放F値がF4.5まで暗くなってしまいます。
- 広角端 24mm 開放F値 F3.5
- 望遠端 85mm 開放F値 F4.5
たとえばこのレンズを使って室内で撮影したとします。
焦点距離を広角端24mmでF値を開放となるF3.5に感度はISO200に設定します。撮影モードは絞り優先オートです。
- 絞り優先オート
- 焦点距離24mm
- 絞り値F3.5
- ISO感度200
- シャッタースピード 1/80
注目すべきポイントはシャッタースピードです。
絞り優先オートでは絞り値を自分で設定しますが明るさによってカメラが自動的に適正露出を導くためにシャッタースピードをオートで決めてくれます。
焦点距離24mmで絞りをF3.5。ISO感度200で撮影すれば写真の明るさが適切になるようにカメラがシャッタースピードを『1/80秒』と導き出してくれました。
一般的に焦点距離に対して『1/焦点距離(秒)』の速さのシャッタースピードがあれば手ぶれが起きづらいと言われているので、焦点距離が24mmではシャッタースピード『1/80秒』は十分な速さがあるスピードとなります。
1秒間を焦点距離で割ったシャッタースピードがあれば手ぶれを起こしづらくなる。たとえば焦点距離24mmであれば「シャッタースピード1/25秒以上」あれば手ぶれが起きづらくなる。
では、露出設定を維持したまま望遠端85mmへとズームしてみましょう。
- 絞り優先オート
- 焦点距離85mm
- 絞り値F4.5 ←絞り値が動いてしまう
- ISO感度200
- シャッタースピード 1/50
露出設定を変更せず望遠端85mmにしましたが開放F値がF4.5と2/3段暗くなるので、暗くなった分をカメラが自動的にシャッタースピードで露出を補おうとします。
するとシャッタースピードが先ほどよりも2/3段分遅い「1/50秒」になってしまいます。先ほどの手ぶれを起こさない最低限のシャタースピード「1/焦点距離(秒)」を下回ってしまうので、手ぶれを起こしやすい状態になってしまいます。
うっかり開放絞り値で撮影していると無意識でズームした時に開放絞り値が大きくなってしまうので、知らない間にシャタースピードが遅くなって手ぶれを起こしてしまう恐れがあります。
これが開放F値が動いてしまうズームレンズのデメリットでございます。
広角での絞り値F3.5の状態で望遠へズームするとF4.5に勝手に絞られてしまうのですが、初めからF4.5にしておくと望遠へズームしてもF4.5のまま動くことはありません。
- 広角端F3.5 → 望遠端F4.5 絞りが動く
- 広角端F4.5 → 望遠端F4.5 絞りは動かない
望遠端の開放絞り値を上回っていればF値が勝手に動くことはありません。
ズームレンズは望遠端を基準に露出を決める
Nikon 標準ズームレンズ AF-S NIKKOR 24-85mm f/3.5-4.5G ED VR フルサイズ対応
開放絞り値が1番大きくなる(暗くなる)望遠端を基準にして露出設定を決めると、とっさの撮影で露出設定に慌てることなく撮影が行えます。
さきほどと同じ室内撮影の条件で、望遠端85mmでも手ぶれを抑えられる最低限のシャッタースピード『1/100秒』よりを速くなるように露出設定をしておきます。
露出モードは絞り優先オートでF値4.5にしているのでISO感度を先ほどより高く設定してシャッタースピード1/100より速いスピードを維持します。
- 絞り優先オート
- 焦点距離85mm
- 絞り値F4.5
- ISO感度400
- シャッタースピード 1/100
この場合だとISO感度を400に以上に設定しておけば手ぶれを起こしやすくなる「1/焦点距離(秒)」を切ることがなくなります。
このように開放F値が可変するズームレンズでの撮影では望遠端の開放F値に露出設定を合わせておけば、これ以上勝手に絞りが絞られることがないので頻繁にズームする撮影では慌てることなく撮影をすることができます。
開放F値が可変するレンズもF値通しレンズとして使う
応用編ではありますが、ズームで開放F値が動いてしまうレンズも望遠端の開放F値に固定して使うことでF値通しレンズと同じ使い方をすることができるんです。
Nikon 標準ズームレンズ AF-S NIKKOR 24-85mm f/3.5-4.5G ED VR フルサイズ対応
こちらのレンズも望遠端85mmの時の開放絞り値F4.5を一定にすると「F4.5通しレンズ」として使うことができます。
Nikon 標準ズームレンズ AF-P DX NIKKOR 18-55mm f/3.5-5.6G VR ニコンDXフォーマット専用
ニコンD5600やD3500のレンズキットで付属しているこの安価なレンズも、望遠端の開放絞り値F5.6に固定して「F5.6通しレンズ」として使うと露出設定が簡単になります。
F値が動いてしまうレンズも望遠端の開放F値に固定して通しレンズとして使うと露出設定が簡単になる。
おのずとF2.8通しやF4通しレンズが高級な理由が見えてくる
ズームレンズの望遠端の開放絞り値を基準に露出を設定すると撮影が楽になるという話でついでですが、プロ御用達でもあるF2.8通し&F4通しズームレンズが高級な理由がわかってきますよね。
さっきまで登場したF値が可変してしまうズームレンズは望遠端が開放F4.5またはF5.6の物がほとんどでした。
Nikon 標準ズームレンズAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR フルサイズ対応
F値が動いてしまうズームレンズも望遠端の開放F値に固定することで「F4.5通し」や「F5.6通し」として使えるという話をしましたが、こちらはズーム全域でもっと絞りを開けられる大口径の「F2.8通し」です。
ということはですよ、想像ではありますが望遠端で開放F2.8ということは広角端ではもっと絞りを開けられるぐらいの光学的に余裕があるよいうことではないですか?
F2.8通しレンズが高級な理由がわかってきますよね?
それと、絞り値F2.8が使えることで露出設定に余裕が生まれるってのも大きな利点。ISO感度を余計にあげる必要もなくなるので写真の表現の幅やシャッターチャンスに強くなります。
だからF2.8通しレンズはプロカメラマンに好まれるレンズなんです。
まとめ
ということでF値固定レンズを使うメリットをおさらい。
- 開放F値が変化するレンズは絞り優先オートでも広角と望遠で絞り値が勝手に変わってしまう
- F値が変化するレンズも望遠端の開放F値で固定して通しレンズとして使える
- 通しレンズはズーム全域でF値が固定なので露出に失敗することが減る